水島くん、好きな人はいますか。




わたしが小心者であることに、水島くんが自然豊かな田舎育ちであることをプラスしても、やっぱり携帯という利便機器の前では飛び降りるという選択肢は出てこなかった。



「おい、万代」

「ごめんなさい」

「はあ!? まだ俺なにも言ってねえだろ!」

「だって顔が怒ってる……」


それにノックもしないで部屋に入ってくるのは怒ってるときだって知ってるんだから。


わたしだって、ちょっと怒ってるのに。


「宿題、学校に忘れたって? 置いてきたの間違いだろ」


どうしてわたしの行動っていつも筒抜けなんだろう。


眺めていた携帯を置くと、ベッドに腰掛けていたわたしの隣が重みで軋む。


「それよりこれ、どういうこと」


眼前に差し出された携帯を見る。そこに映っていたのは、


≪そういえば今日、万代としゃべった≫


と笑顔の顔文字が付いたメールだった。



「誰からのメールかわかるよな」


こんなことが日常茶飯だから、中学3年生になっても“織笠 万代は関城 瞬(せきじょう しゅん)の愛玩犬”なんてからかわれるんだ。


ただのお隣さんで幼なじみなのに。瞬にはとってもかわいい彼女がいるのに。


「いいか万代」

「わかった」

「まだなにも言ってねえだろ! お前は予知なんかできねえ凡人の中の凡人だってことを忘れるな!」


どうしようもう本当に暑苦しい。

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