水島くん、好きな人はいますか。


「瞬がね、『俺なりの感謝のつもりだったのに、これを見つけたときの万代の冷やかな目が腹立った』って言ってた」


どうして急にそんな話になるんだろう……。


理解しようとする一方で、瞬の感謝とはなんのことかと考えてしまう。


「瞬にとって万代は、正義の味方」

「えっ?」

「まだ付き合ってないころに聞いたの。瞬の両親が仲違いしてたとき、万代がいつも一緒にいてくれたって」


あ……そのころだ。9歳か10歳くらいのころ。ベッドに体育座りでうずくまる瞬は、この部屋で泣いていたんだ。


わたし、瞬の頭を撫で続けることしかできなくて……。


「万代だけが気付いてくれたって。ひとりでいると必ず一緒に遊ぼうとか一緒にご飯食べようとか。そう言って家に招いてくれる万代が、誰よりも頼もしかったんだって」


それは、お隣さんで幼なじみだし。うちも母子家庭で瞬の家にお世話になることもあったから……。


瞬と一緒にいることは当然とさえ思っていた。


「だから瞬は、なにがあっても万代の味方でいるんだ、って。あのころ救われた恩は倍にして返すんだって言いながら、今はそれが行き過ぎてるんだけどって笑ってた。……あたしは、そんな瞬をもっと好きになったの」


おだやかな笑みをたたえたみくるちゃんが、ぼやけていく。


そんなこと、知らなかった。瞬がそんな風に思っていたなんて、ちっとも気付かなかった。


みくるちゃんが謝る隙すら与えず、わたしのことまで大切にしてくれるなんて思わなかった。
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