君と僕のエスパシオ
玄関から見て、一番手前のドアがかすかに開いている。
エミリアは勢い良くドアを開け、―部屋を見回し、肩を落とした。
部屋の中は恐ろしく汚かった。
床には歩くスペースが無いほど本や書類の束が散乱している。
殺風景な部屋にある唯一の机の上には飲みかけのミルクティーのカップが置かれていた。
その机の隣にある白いソファには、書類に埋もれた青年が規則正しい寝息をたて、寝ている。
きちんとしたらきっと誰もが認めるであろうミルクティ・ブラウンの髪は、様々な方向に自由に跳ねている。
少し大きめのシャツは釦が取れかけ、所々に点々と染みがあった。
「あの、大丈夫ですか…?」
やっとの思いでソファまでたどり着き、エミリアは青年に声をかける。
「ん、ふぁあ…」
青年はエミリアに気が付いたのか、小さく伸びをしてから頭を振った。
「君は?」
乱れた髪を手で直しながら、青年が言う。
「私はエミリア・キャメルです。勝手に入ってきてすみません。今日は、エドガー・エヴァンズさん、貴方に頼みたいことがあって伺わせて頂きました」
エミリアが自己紹介をしている間も、青年、―エドガーは、ばさばさと周りの書類のタワーが倒れるのも気にせず机まで行き、カップに口をつけていた。
「エドガー・エヴァンズさん、貴方は特別な力を持っている。私はその力をお借りしたいのです」
未だ眠そうに目を擦りながら部屋の中を移動するエドガーを目で追いながら、エミリアは説明を続けた。