君の声。
ハァ、とため息を吐いて下を見る。
なぜか自分の姿だけは鮮明に見えた。
ふと、視線を移すと、
「…親父……」
幼い頃、最後に見た時と変わらない、父親の姿だ。
意外にも、俺の頭はすっきりしていて、
憎いはずの、いい思い出なんか一つもないこの人を、
懐かしいと、思ってしまっているんだ。
俺にとっては最大の精神的障害のはずだった。
あぁ、でも、
思ったより、怖くはなかった。
親父はこんな顔だったのかと、
映像として何度も見たはずだった。
けどいつだって目を離して、こんな風に見た事はなかったんだ。
「………リ、…ク…」
記憶にすら残っていない、だけどあの声と同じ声で
貴方は俺の名を呼んだ。
「うん。俺だよ。」
真っ直ぐに、目の前にいる貴方を見て、
その頬に、流れている物をみた。
暗闇の中、自分と父親しか見えない。
「…ヒ、トリハ……イヤ、ダ…」
あぁ、なんて自分勝手なんだろう。
それでも、
俺が一緒にいけば、母さんや姉貴に、今までの俺の苦しみを味わわせる事はない。
俺がこの方法を選んだ、その理由だった。