先生さまはキスで繋ぐ
「冷たい」、「クール」、「かわいげがない」、「そっけない」の代名詞である私、藤堂遥(とうどう はるか)。
つり目がちなのがいけないのか、それとも声が少しハスキーなのがいけないのか、人見知りで人とうまく話せないのがいけないのか。
気にしないふりはしているけれど、実はちょっぴり傷ついてたりして。
でも私だって、好きでそっけなくしてるわけじゃない。極度の人見知りなだけ。あと、極度の面倒くさがりなだけ。
鏡の前で毎日笑顔の練習をしているなんて、恥ずかしくて誰にも言えないし。
そんな私が接客業でアルバイトなんて、クラスのみんなが聞いたらすごくビックリすると思う。
けれど、飾りっけのない黒いワンピースと白いエプロンを私は気に入っているし、呼び方と制服が変わっているだけで、うちでは特殊な接客は必要ない。
金のためなら多少のキャラ設定くらい作ってみせようじゃないの。
ここで笑顔の練習をすれば、誰も私のことを「冷たい」の代名詞だなんて言わない! ……はず。たぶん。
つまり、私はお金のためならブリッ子の演技を要求されても勘弁してやろうと、
あわよくば笑顔の練習にも使えるじゃないかと、そんなことを思っている、高校生ながら金汚い女だった。
『ヒメ』という偽名で、今日も現実の自分とはかけはなれた店員を演じる。