先生さまはキスで繋ぐ
「おかえりなさいませっ、ご主人さま」
その日も、私の地声のハスキー声よりもオクターブ高いんじゃないかというくらい作り声で、来店した客をいつものように迎えようとした。
「あ……」
わりと若い男性二人組だったその客のうちの一人が、凍りついたように動きを止めた。
……その目は、間違いなく私を見ている。
私も凍りついた。
当たり前だ。
地味な雰囲気の男。年齢29歳、身長180cm、黒髪で黒縁の眼鏡。
私服姿、初めて見たなあなんて、凍りついたまま頭の片隅で考えていると、男は私の腕を掴んで、頬をひきつらせた。
「……藤堂(とうどう)……お前、ナニやってる?」
私の通う学校の化学教師、北口(きたぐち)にそう言われ、私はニッコリ笑いながら、しらをきることにした。
「おかえりなさいませ、ご主人さま?」