桜下心中
 改札へ行った。

 駅員を呼び止める。

「すみません、短髪でよく日焼けした若い学生さん、通りませんでしたか?」

「そういう人は居なかったと思うよ。始発は商売の人が多いからね」

「そう、ですか……」


 ここを通ったなら、見ているかもしれない。
 微かな期待があったけれど……

 待合室のベンチに座る。
 息を整え、視線を落とせば足袋は泥だらけだった。

 今すぐ泣き出したいのを堪える。


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