地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
家へと向かう中で、ようやく橘くんに解放されたらしい柚莉が、あたしの元へやってくる。

「杏樹」

「ん?」

「なに、あの人!」

顔で、橘くんを指した。

どうやら、お怒りらしい……。

「あ~ごめんね。同じ学部の人なの。ご飯食べることを話したら、自分も行きたいって言われて……」

彼が来ることを断れなかったと話す。


「でも、みんな気分……微妙になってるわよ?」

「そうなんだよね……」


柚莉がいうことは、さっきから気づいてはいた。

みんな、橘くんが入ってきたことをあまりよく思ってない。

現に、あたしの隣を歩く陸は閻魔大王のままだし、その隣にいる会長も、八岐大蛇のまんまだった。

ふたりの怒りはおさまっておらず、橘くんを睨みつけてる。

どうしよう?

あたしは、この隣にいる閻魔大王がいつキレるかが心配。


すると、柚莉がまた話しかけて来た。


「それに、繭ちゃんのことはどうするの?」


あっ……! ヤバイッ……!

ハッとして、目を見開く。


「忘れてたんでしょ?」

「うん……だって、みんななら事情を知ってるから……」

柚莉からの指摘に、頷いて見せた。


本当に忘れてた。繭ちゃんのこと。

彼女は、今日の食事会を楽しみにしており、「夜に早く寝ないようにお昼寝する」と言って、家でお留守番をしているんだ。

繭ちゃんは妖怪だけど、術をかけてあげれば、見鬼のない人にも見える。

それはいいんだけど……彼女の素性を橘くんに聞かれた場合、どう答えようか?

遠い親戚の子?

ならば、あたしの家にいる理由は?

う~ん、どうしよう?


「杏樹の秘密を知らない人が来ると、こうなっちゃうのよ。今度からは、来させないようにしなきゃね?」

「うん……そうする」

柚莉の言葉に、安易に他人を招くことをやめようと思って素直に頷いた。
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