地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
どうして?

その疑問が真っ先に頭の中に浮かぶ。

繭ちゃん、人見知りってわけじゃないよね。うん。

初めて会長や零ちゃんたちに会った時も、すんなり仲良くなってたし。

橘くんが苦手なのかな?


「あーちゃん、どうして連れて来ちゃったの?」

「え? あ……今日のことをね、うっかり話しちゃって……」


手短に、さっき柚莉にも説明ことを話した。

繭ちゃんの顔を覗き込むと、今にも泣きそうな感じ。


「あの人に何か言われた?」

あたしが知らないうちに、何かを言われたりしたのかな?

それで、近づきたくないって思ったとか?

小さな声で、こそこそ話をするように問いかける。


「……ううん」

だけど、彼女はフルフルと顔を横に振った。

「じゃあ、どうしてあの人が家に来たらイヤなの?」

特別危害を加えられたわけでもないなら、なんでだろう?

優しく繭ちゃんの頭を撫でながら、さらに聞いてみる。


「……ダメだよ。どうしても、あの人はダメ。ここに入れちゃダメ」

それだけしか言わない繭ちゃん。

ダメって……どういうこと?


まだ泣きそうな顔の彼女を抱っこして、どうやって慰めようかと考えていたら---……。


「繭、おいで」


突然、後ろから声がした。


え? この声って……。

後ろを振り向くと同時に、

「りーくん!」

さっきよりも、少しだけ明るさを含んだ繭ちゃんの声が、彼の名前を呼ぶ。

少し疲れたというような顔をした陸が、そこに立っていた。


「陸……?」

なんでキッチン内に陸がいるのかと思って、見つめると、ヤツは軽く笑ってあたしが抱っこしていた繭ちゃんを奪い取って、抱きかかえる。

そうして、彼女につげた。


「繭、メシができるまで、杏の部屋で遊ぶか!」


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