地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
そして、2時間半後---。

ひとりで黙々と料理を作り続けて、ようやく完成する。


「で、できた!」

なんせ、9人分の夕飯ですから、かなりの量!ちょっと疲れたよ。

キッチン内でひとり達成感を味わっていると、

「杏樹~~!」

あたしの名前を呼びながら、零ちゃんがやって来た。

それも、なにやら、ものすごくお疲れの様子で。

「大丈夫?」

そう問いかけると……

「大丈夫じゃないわよ!杏樹の家に遊びに来たのに、どこかのパーティーに来た気分!ウザったいオジサンたちの話し相手をしているみたいだわ!」

ものすごい形相で一気にまくし立てられる。

あははは……。すみません。


彼女が怒っている原因は、一目瞭然。

橘くんです。

空気がまったく読めないのか、零ちゃんが西国くんと話していてもフツーに会話に混ざりこむ。

迷惑がられているのに、全然気が付かないし。

みんなイライラを抑えるために、パーティーの時のような営業スマイルを顔に張り付けているんだ。

料理中も、ちょくちょくとみんなの様子を見ていたから、状況は把握してた。


みんなが、上級階級のパーティーとかに慣れていてよかったかも。

じゃなきゃ、今よりもっと雰囲気は悪かったかもしれない。

みんなのおかげで、さっきよりはだいぶマシになってる。

……今度改めて、みんなを招待しようかな。

もちろん、橘くんは抜きで!

橘くんを連れてきたのは、あたしなのに、みんなに迷惑をかけちゃった。

話し相手も任せっぱなしだし。

申し訳ないという思いを込めて、顔の前に両手を合わせる。

「杏樹の優しいところは大好きだけど、今度からもうちょっと言動を考えてね」

「うん、ごめん」


そう言うと、零ちゃんも微笑み返してくれた。

みんなにご飯ができたことを伝えて、リビングの方へ運んでもらう。

食べる準備などができたところで、2階にいる陸たちを呼びに行くことにした。

その時。

「杏樹ちゃん、ちょっとトイレ借りてもいい?」

橘くんからそう言われる。

彼をトイレのある場所まで案内して、2階に続く階段を上がった。

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