地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
――杏樹side――

唱えたのは、反射的だった。

陸の口から『TV番組に出演する』なんて聞いたから。


「あんたりをん、そくめつそく、びらりやびらり、そくめつめい、ざんざんきめい、ざんきせい、ざんだりひをん、しかんしきじん、あたらうん、をんぜそ、ざんざんびらり、あうん、ぜつめい、そくぜつ、うん、ざんざんだり、ざんだりはん!」


周りにいる人を即座に気絶させる呪文を唱えて、一度だけ柏手を打った。

その瞬間、みんながプツリと意識を失って、その場に倒れたんだ。

悪いとは思ったけど、TVに出るなんて冗談じゃない。

あたしが、華やかなところが嫌いだって知っているくせに。


人数は6人なんだから、あたしじゃなくてもいいはずでしょ?

だから、逃げてやる!

この建物を出て、タクシーにでも乗れば、すぐに帰れる。

大丈夫。

そう自分に言い聞かせて、バックだけを持ち、みんなが倒れている部屋を飛び出した。


長い廊下で、どっちに行けばいいのかわからない。

エレベーターには乗ったから、それを探そう!



そう思っていたのに、20分後。


「ここ……どこ?」


あたしは自分がどこにいるのかさえ分からなくなっていた。

目の前にあるのは、どこかに通じるような部屋の扉だけ。

それが、ズラーって並んでいる。

開けてみたいけど、ヤバイところだったら……と考えてしまって、扉を開けることができない。


どうしよう!

早くここから出ないと、陸たちが起きちゃうよ!


気持ちばかりが焦って、通路を右に行けばいいのか、左に行けばいいのか、はたまた真逆の方に行けばいいのかわからない。

迷路にいる気分。


「よ、よしっ! 左の通路に行こう!」


ようやく決めて、走り出した瞬間。

――ドンッ!!

「うわっ!?」

「ひゃあっ!」

あたしは、誰かにぶつかった。
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