地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
その日は、話を断り、応接室を出た。

相手の男たちは、まさか俺が断るとは思っていなかったらしく……部屋を出るまでに散々引き留められた。

「芸能界に興味はないのか」とか、「君なら、一晩で人気者になれる」とか。

そんなもの、一切興味ない。俺にとって、1番の幸せは、杏と平穏に暮らすこと。

咲姉のように、モデルやタレントとかになろうとは微塵も思わないし。

それだったら、とっくの昔にスカウトを受けている。


応接室を出た俺は、無性に杏の声が聞きたくなって、ケータイで電話をかけた。

電話に出た杏は、朝比奈とメシを食いに行っているらしく、楽しそうで俺も顔がほころんだ。

時間を計算して、仕事が終わった頃に迎えに行くことを決め、通話を切った。


この日、杏との帰り道で今日の出来事を言おうと思ったが、あまりに楽しそうに朝比奈と新しい友達のことを話すものだから……言うのをやめた。

それに、この話は断ったので、もうする必要もないと思っていたんだ。


しかし---……1週間後。

仕事の過労で体調を崩し、ようやく復活した頃だった。

また、応接室に呼び出された。相手はもちろん、あのテレビ番組の男たち。

一度断ったのに、どうしても出てほしいと譲らないヤツらで。

「あの美人は、絶対に人気が出るから!」など……散々説得された。

んなの、もうとっくの昔から知ってるってば。

杏がモテることなんて。

ファンクラブだって高校の時からあったんだぞ、テレビなんて出てみろ。

全国区で人気者になんだろーが。


何度も断るけど、テレビのヤツらは、絶対に引かなかった。

そして、もうひとつ提案をしてきた。

それは、杏と俺だけでなく、俺らの友人たちも出演することだった。

総勢6人。

困った俺は、その時まだ構内にいた蓮を呼び出した。

蓮だって、ルックスはそこいらの芸能人よりもいい。なんたって、法学部のプリンスだからな。

蓮を見た男たちは、『彼にもぜひ!!』と言ってきたのだった。

2時間に亘る話し合いの結果、『杏も友達が5人もいるなら、大丈夫だろう』ということで、出演依頼を受けることになったのだった。



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