地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
そして、数日も経たないうちに杏のバイト先に、みんなを集めた。

表は、杏のバイト姿の視察と言っておいて、本当の目的は……テレビ番組に出るということを話すことだった。

収録の日程は、7月の初め頃の土曜日。


その日までに杏を納得させて、連れて行かなければならない。

話してみると、思いのほか、全員出演することには賛成してくれた。

もしかしたら家のこともあるし……断られるとも思っていたのだが。

だが、安斎と悠は、その頃にどうしても外せない講義が入ってくるということから、出演メンバーからは外れた。


その日は、蓮、朝比奈、松沢、雅人の4人の承諾を得て、解散した。


後日、大学内で、蓮と色々と話し合い、杏がバイトの入ってない日にメシでも食いながら、今回のことを話そうと決めたんだ。


それが、この前の杏の自宅での食事会。

その日に、俺から全員のいる前で話をすることになっていたのだけど。

思わぬ邪魔者が入ったんだよな。


ただの同じ学部で、ただ同じ教室で講義を受けているというだけなのに……友達だとずうずうしく主張して入り込んできた、橘修平。


俺たちの計画は見事に崩れ、杏に話すタイミングを奪われた。


そんなんで、今日……もう泣きわめこうが、暴れようが、逃げようが、全員で覚悟を決めて杏を連れて来たんだ。


まさか、本当に術まで発動させて逃げ出すとは思っていなかったが。


俺らに捕まるのがイヤで、6階から飛び降りようとするし。

はたから見たら、自殺をする人のように見えるが……杏は大真面目にただ逃げようとしていた。

コイツは普通に、3階くらい飛び降りるしな。

でも、さすがに6階はヤバイだろうと思って、怒鳴りつけたのだが。

おかげで、今にも泣きそうな顔をしていた。


どうしてここに来たのかを説明すると、もっと涙を両目に溜めている。


あ~……ったく、仕方ねーな。

――ガタン……

ソファーから立ち上がり、杏の腋に手を差し込んで抱き上げた。

「ちょっと出てくる」

後ろにいるメンバーにそう告げて、控室を出る。

使われていないのか、人気のない倉庫に入った。






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