地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
――陸side――

腕の中で意識を手放した杏を見つめる。

俺は何度、こんな思いをすればいいんだろうか。

彼女が術を扱う人間なのは、仕方ない。

それが彼女の仕事だから。


しかし、こうも自分の腕の中で気を失われるのはいい気分じゃない。

安心して、頼ってくれることは嬉しいが……高校の時からもう何回目だって感じだ。


「お前が目を開けるまで待つ時間ってのは、恐ろしいくらいに長いんだぞ……」


ハアー……とデカいため息をつき、杏の体を抱き直した。


その直後。


「疲れたなぁ~」


若い男たちの声が聞こえてくる。


ちらりと視線を聞こえた方に向けると、junkieのメンバーだった。

5人全員いる。

仕事が終了して、帰るところなんだろう。

杏を抱き上げたまま、梶原さんが到着するのを待つ。


すると、ヤツらは俺を見つけたようで……。


「あ! さっきの天才イケメン君じゃね?」


俺らの方に近づいてきた。


声をかけたのは、赤髪のヤツ。

たしか……雷だっけ?

俺と同い年だよな?


「お疲れ様でした」


一応、作った笑顔で挨拶はする。



気持ちは一切こもってないが。

お前らのせいで、コイツがぶっ倒れたんだから。

ヤツらは、そのまま去っていくものだと思っていた。


しかし。


「あれ? コイツ寝てんの?」


雷が杏を指差しながら聞いてくる。


ただ寝てるんじゃねーんだよ。

過労でぶっ倒れたんだよ!


「ちょっと、疲れたらしくて」


遠慮気味に返した。


さすがに、『アンタらのケガを治したから倒れた』と言ったら、杏は嫌がるだろうから。

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