地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
その顔は、『やっぱりか』というようなものだった。


「そんな理由で、10人以上のケガを治したのか?」


その一言にカチンとくる。


「“そんな理由”って! 陸、社長なんだよ!? 仕事相手に何かあったら困るのは陸でしょ? あたしひとりくらい倒れたって……」


“いいから”と続けようとしたのに。


――ムギュッ


「いった!」


ヤツに両頬を左右に引っ張られた。


「あ? 今なんて言った?」


そこにいたのは、本気で怒っている陸。

さっきまで微笑んでいたのに、それさえもない。


「いや、えっと……」

「お前は、俺に何度こんな思いさせたら気が済むんだ?」

「その……」


頬をつままれたまま、キョロキョロと目を動かした。


「もう見たくねえんだよ。お前がぶっ倒れるところなんか……意識が戻るまでお前を待つこっちの身にもなってみろ」


そう言うと、陸は深いため息を漏らす。


「ごめん……」


そっか……陸の気持ちなんて考えてなかった。


もし逆に、陸があたしみたいな状況になったら、正気じゃいられなくなるよね。

その思いも込めて謝ると、ヤツにつままれていた頬は解放された。


「確かに、あのアイドルたちのケガを治してくれたことには感謝する。予定通り仕事は進められそうだからな。でも、もうこんなことはするな。たとえ俺のためでも、だ」

「……でも……」


陸の気持ちはわかるけど、でもそれじゃ……会社に影響が出るでしょ?


「バカ杏。俺を誰だと思ってる。そのくらいのこと、すぐに何とでもできる」


あたしの心の中を見抜いたように、答えてくれた。


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