地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
悪いが、今はこんな気分じゃない。



彼女の体から離れようとしたのに、先に杏の方から唇を離した。




たぶん。

キス自体は、ほんの一瞬の出来事。





「あ、杏?」





驚いて、顔を見ようとしたが。





「行ってきます」




――サラッ……


俺を見ることなく……背を向けた。


コイツのトレードマークである長い黒髪が揺れる。




その声は、静かで……ボロボロになった俺らに、手を差し出す女神のように見えた。




彼女は、そのまま……まっすぐ歩いて、悠たち家族のもとへ行く。



杏?



俺は、何をするのかわからず、不思議でボーっとしていた。




「もう、泣かなくていいですよ」



そう一言。


柔らかく、優しい声音で告げると、今度は看護師の方へ向かう。




「3人の……1番ケガが酷い個所はどこですか?」


凛とした、でもどこか柔らかい声で、問いかけた。


ま、まさかっ……!




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