地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
とか、考えていた時に。


「陸……」

「ん?」


俺の服を引っ張りながら、杏が耳元に口を寄せる。


「抱っこして」

「は?」

「抱っこ!」


そう言って、俺の方に体を向けた。


「陸、ギューしてくれてないもん」


甘えるように小さな声で言い、クイクイッと服を引っ張られる。


相変わらず、頬は赤い。

けど、表情を見る限りは、まぁ元気そうだ。


――カラカラ……


点滴のスタンドをベッドにギリギリまで引き寄せ、両手を伸ばしてきた。


「ったく……」


かわいいこと言うなっての。

我慢できなくなんだろーが。


ベッドから立ち上がり、点滴のスタンドがある方へ回る。


その方が、ムリに点滴のチューブとかを引っ張らずに済むだろうから。


「抱っこ」

「はいはい……」



ベッドに腰掛けると、杏に負担をかけないように、体を引き寄せた。


「えへへ……」


俺の足を跨がせて、背中に腕をまわす。


願いを聞いてもらえたからか、杏は嬉しそうに笑った。


安心しきっているのか、俺の方に全体重をかける。


重いくはない、むしろ、痩せたな……。


長い黒髪を撫でおろし、背中をポンポンと叩いた。


力が出ないのか、杏から抱き着いてくることはない。

それでも、1週間ぶりに抱きしめられたので、満足だった。


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