地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
しばらく、その体勢でいると。


「陸、ごめんね。勝手に術使っちゃって……」


俺の胸に顔をうずめたまま、ポツリと言う。



「あのさ、色々考えても、どっちが正しかったのか、わかんねえ。でも、お前が生きてここにいるから、もういいよ」



あの時の正直な気持ち、俺はどっちも選べなかったから。


杏と蓮たち、どちらを助けるかなんてさ。

だから、杏の判断は、ある意味正しかったんじゃねーかと思う。


結果的に、お前が俺の隣にいるから……もういいとしよう。



「ありがと……」


顔は見えねえけど、その言葉で、杏がホッとした表情になったような気がした。



もう一度、頭を撫でてやると、胸にスリスリと顔を寄せてくる。


その仕草がかわいくて……フッと笑みをこぼした。



それから、適当に病院の売店で昼飯を買い、杏の傍で食った。


だが、杏は1週間寝ていたため、まだ水しか飲めない。


ちびちびと水を口に運んでやると、うれしそうな表情になる。


しかし……。



「抱っこ!」


安静にしてろと医者に言われたのに、杏は暇さえあれば……抱っこをせがんだ。



終いには……俺の胸に体を預けて、そのまま眠るという……。


服を握ったままの杏をベッドに寝かせるのは、困難で。



自然に目を覚ますまで、俺の腕の中にいた。



< 430 / 622 >

この作品をシェア

pagetop