地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
それで、事件が起きたあの日も……2時間ほどの稽古をして、自宅マンションまで送ってもらった。

しかし、その帰り道で、襲われ……意識不明の重体に。

茅那ちゃんは、自分を送ったせいでケガしたんだと思って、こうやって忙しい仕事の合間をぬって、会長のお見舞いに来るらしい。




「ま~なんと健気な」

柚莉がコーヒーを飲みながら呟いた。



まわりのみんなも、うんうんと頷く。

あたしも同感だわ。

だってさ、この八岐大蛇の暴言は、ハンパないんだよ?

あたしだって、メガネだの、ブスだの散々言われたんだから。

それなのに、来てくれるって……もう、感謝しなきゃいけないでしょ?


そう考えていたら。


「杏樹、コーヒー」


あたしの真向かいにいた会長から、カップを差し出された。


「は?」

「おかわり」


一言しか口にしない、この八岐大蛇。

完っ全に、あたしに対する命令ですよね!?

確かに、入れたのはあたしだけど。

自分で入れてもいいのに……この野郎!


「はいはい、入れればいいんですよね」


キッと睨みつけつつ、カップを受け取ってコーヒーを入れ直す。


病室内には、ちょっとした給湯室のようなものがあって、コーヒーを入れるくらいはできるんだ。

沸騰したお湯で、会長の分のコーヒーを入れていたら。


「杏樹。今日……繭は?」


八岐大蛇が、繭ちゃんのことを聞いてきた。


「あぁ……今日は、両親たちについて行ってます。来ませんよ」


注いだカップを持って、ソファーに戻り、会長に渡しながら返す。


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