地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
空が赤く染まって、夜に近づいたころ。


「お茶入れて来るから、部屋に行ってて?」

「あぁ」


病院から送ってきてくれた陸を家にあげ、部屋に向かうとように言う。


両親やじいちゃんたちは、今夜も夜中に帰ってくると聞いていた。

会長の病室に結構いたみたいで、外に出た時にはもう6時を過ぎてたんだ。

ひとりで帰るのは危ないからって、陸が送ってくれたの。


「で~きた!」


さっきまでコーヒーを飲んでいたから、今度はお茶を入れて、自室へ。

――ガチャ


扉を開けて、中へと入り……湯呑を乗せたお盆を部屋の中央にあるテーブルに置いた。


陸は、あたしのベッドに腰掛けていて、背中を向けてベッド下に座る。


「はい、お茶……」


後ろを振り返って、ヤツに渡そうとしたけど。


「そこに置いといて」


その言葉を言いつつ、あたしを後ろから抱きしめた。


お腹に、しっかりと腕を巻きつけられる。


「陸?」


湯呑をお盆の上に戻し、顔だけでも振り向こうとするが、できない。


ちょっと。どうした?


ヤツの行動が不思議で、首を横に傾けた時。


「ちゃんと……帰って来たんだよな……」


そんな声が耳元で聞こえた。


帰って来た……。


あぁ……そうか。

陸の行動の意味を理解し、お腹にまわされている腕を解く。


「杏?」

少し驚いた表情のヤツに、今度は自分から後ろを振り返って、抱き着いた。


「まだ言ってなかったね。陸、ただいま」


首筋に顔をうずめて、そう言う。

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