地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
どうして、いきなり抱きついてきたのか。

その理由は……たぶん、不安だったんだよね。

あたしが、ちゃんとヤツの元に帰って来るかどうか。


高2の時のことが怖くて……顔を見るまでは、抱きしめるまでは、安心できなかったんでしょう?

だから、今朝。

大学の教室だというのに。


まわりに人がいるのも考えないで、あたしにキスなんてしてきたんでしょ?


帰って来た喜びが大きくて。

ギュッと陸の体にまわす腕に力を入れた。

もう帰って来たよ。大丈夫だから……。

そんな気持ちが伝わるように……抱き着く。


すると……。


「ん……おかえり」


安心したような、先ほどよりも肩の力が抜けた声音で返された。

陸の方から体を離し、あたしの顔を覗きこむ。


「1週間……長かった……お前がいなくて」


そう言いながら、目尻から頬にかけて撫でた。


「ごめんね、これでも……急いで帰って来たんだよ?」

「知ってる。お疲れ様……」


フッと笑みを浮かべて、あたしの前髪をよけて、額にキスを落とされる。


こんな時間、本当に久々だなぁ……。

会長たちの事件が起きてから、ずっとバタバタだったし。

離れていた時間を埋めるように、陸とキスをした。




しばらくして、ヤツが聞いてくる。


「つーかさ、あの荷物はなんだ?」


そう言って、部屋の隅に置かれている大量の箱を指差した。


へ?

あたしは、キスに夢中で。

あぐらをかいた陸の足の上に乗って、ヤツの首に腕をまわしたまま、顔だけをそちらの方へと向ける。


「あぁ……それね、勝手に送られてくるの」


陸が指差したのは、白い段ボール箱に入れられた……真新しい商品たち。
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