地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
「じゃあ、その紙で頭を撫でて?」
ジェスチャーで、杏が自分の頭を撫でる。
それにならい、俺も半信半疑でやってみた。
何も変わらない……。
「おい、これ……」
杏に言おうとした瞬間。
「自分の息を吹きかけて」
ジッと見つめられ、何も言えなくなった。
この表情、仕事用のものだ。
さっきまでビービ―泣いていたというのに。
いきなり陰陽師としてのスイッチ入るからな。
この時だけは、雰囲気が変わって、天然鈍感はない。
マジメな顔をして言われるので、そっと息を吹きかけた。
その瞬間。
この数日、杏が京都に行ってからあった酷い頭痛が、スーッと引いた。
ずっと痛みがあったのに、それさえもない。
体に、気怠さは残るものの、ほとんどの苦痛は取れている。
「どう? 少しはラクになった?」
息を吹きかけた紙を、杏が受け取り、何やらキレイな木箱にしまった。
まっ黒な風呂敷で縦結びに包み、またまっ黒な風呂敷で包んだ。
「すげー……」
さっきまで苦しんでいた苦痛がなくなったことも、杏の陰陽師としての力のことも驚きで。
それしか言えなかった。
「これから、たぶん……気怠さや体力が足りないってことはあると思うけど、呪詛はこの紙に送られるから。陸に害はなくなるよ」
筆などの使った道具をしまい、俺の元へと来る。
――パンッ!
一度柏手を打つと、またベッドにいる俺の上によじ登ってきた。