地味子の秘密 其の五 VS闇黒のストーカー
「え? あっ!」
表情が一転。
パッと、うれしそうなものになる。
「あっていたみたいだね。はい、どうぞ」
女の手に本を乗せた。
しかし、女は不思議そうな顔をする。
「あの、なぜ……あなたが?」
「タイトルを呟いている声が聞こえてね、ちょうど僕の目の前にあったから。ほしかったんでしょ?」
ニッコリと微笑んで見せた。
ここで、女は顔を赤くする。
そう思っていたのに、反応はまた違った。
「わぁ~!ありがとうございます!」
赤くなんて、まったくならず、笑顔で礼を言われる。
ペコッと女が頭を下げた。
予想外の反応に、俺の方が一瞬固まる。
「なにかお礼しなきゃ!」
そう言う女の呟きが聞こえた。
『礼は体で』
俺の基本はそうなっていたモノだから、この女にもそうしようと考えていた。
笑顔で口説けないなら、甘いことを囁いて、落とそう。
なんて、思っていたのに。
「あれ? 首筋のところ、虫に刺されました?」
「は?」
「だって、赤くなっているし……」
「いや、これは……」
少しだけ着崩したシャツから見えたらしい。
女が俺の首を指摘する。
つーか、コイツ知らないんだ。
この赤いモノが、キスマークだってこと。
昨日ヤった女につけられたんだよな。
「虫刺されとかじゃないから。大丈夫だよ」
そう言って、笑顔で誤魔化した。