隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 集中治療室近くの長椅子に移動して、あたしと理名ちゃんは並んで座っていた。他には誰もおらず、病院の廊下は静まりかえっている。
 蓮の両親は、家族控え室みたいなところに居る。あたしはそこには入れない。誘われたけれど、ちょっと気持ち的に無理だった。だから理名ちゃんはあたしに付き合っている形。1時間くらい、2人の間に会話はない。
 理名ちゃんは時折、鼻をすすっているけど、それは泣いているのか鼻水なのかは分からない。
 沈黙で息が詰まりそうなので「トイレに行ってきます」と立ち上がった。そしてトイレに向かわず集中治療室へ向かう。
 静かな廊下を歩く。自分の足音だけが響く。そして集中治療室の前まで来た。
 ガラス越し。なんだかいっぱい管を付けられて、包帯ぐるぐる巻きの蓮がベッドに寝ていた。胸が微かに上下しているから、ちゃんと生きてはいる。

 なんて姿、なんて事だろう。
 バイクで走っていて、トラックとガードレールの間に挟まってバランスを崩し、転倒したらしい。
 トラックの下敷きになるのは免れたらしけど、頭を強く打ち、肋骨も数本折っていて、意識が戻るまで安心はできないと先生が言っていた。

 自分よりも大切な存在。それを無くしたらあたしは一体、立っていられるのだろうか。まっすぐ歩いて行けるだろうか。失いそうになっている、この現状。まさかこんなことになるなんて。
 あたしの思考は最悪の事態に支配されている。

 片目になってから、あたしは考え方にヘンな癖がついている。それに気付いたのはいつだろうか。傷付いたり、ショックを受けたりするのが怖くて、常に最悪の状態を予想している。そうすれば結果が悪かった時にがっかりしなくて済む。ショックを受け、よろける度合いが軽い。

 過剰に期待しなければ、裏切られなくて済む。どうせそうならないでしょ、違うんでしょうと。

 眼帯をして登校した時に、クラスのみんなが珍獣でも見るかのような目で見ていた時もそうだった。そうそう、最初から友達なんかここに居なかったんだって、だからこれは平気だよって思いこんだりした。みんな最初から友達じゃなかったんだ。

 そうやって自分の中で、思いや感度を上げたり下げたりして生きていた。でも、今はそんなんじゃだめだ、今は。そういうことじゃない。

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