隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~

 カードをまた見る。蓮の字で、詩絵里と書かれてあって。涙が溢れた。腰が抜けたようになって立ち上がれない。全身の肌が泡立っている。ショックだった。
 こんなことまでしていたなんて。まさか今日の事故……と危険な考えが頭を過ぎったけれど、それをすぐ振り払う。違うに決まっている。
 目をちょうだいよ、そう言ったあとの時のケンカが蘇ってきて、自分がどれだけクソ野郎な言葉を吐いてしまったのか、改めて気付いた。
 自分にもしものことがあった時、角膜をあたしにくれる気だったんだ、蓮。あたしは一体、何をやってきたんだろう。何を見てきたんだろう。
 蓮はずっとそばに居てくれてたけれど、あたしは蓮の心に寄り添うことをしなかったんだ。自分のことばかり考えて。
 野球チームデザインの「臓器提供意思表示カード」。蓮の「ぼくの夢」は「野球選手」だった。

 ごめんなさいはあたしのほう。
 目なんかいらない……そんなものいらないから、お願いだから目を覚まして、蓮。



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