隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「えーと……」

 コートのポケットに手を入れる。あのカードが触れた。

「なんかちょっと、家族の中には居辛いっていうか」

 居辛いし、なんていうか。だって、蓮が、このカードを……。そこまで言えなくて、喉のところで詰まってしまって、もう堪えられなくなった。

「なに、ちょっとどうしたんだよ」

 タケさんが困った顔をしている。くちゃくちゃの顔をしていただろう。声を出して泣いてしまった。

「ううぅ……」

 嗚咽が止められず、文字通り号泣で。こんな風に人前で泣いたのは、いつぶりなんだろう。タケさんの大きな手が、あたしの頭を優しく撫でてくれた。まるで、悲しみと苦しみを吸い取ってくれるようだった。


「このままじゃ寒いし、とりあえず店行くか。俺んとこの店」

 そう言われ、涙と鼻水を垂れ流したまま、タケさんのハーレーの後ろに乗せられる。
 そして、タケさんの飛ばしっぷりに怖くてなのか、蓮の事でなのか分からない涙がまた出てきて、タケさんのライダースーツをを掴みながら泣いた。

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