隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 こんな風に、たまに目のことを心配していると思われるフワッフワなことを言う店長。

 なまずっぽい外見の、ここのスーパーの店長は60代で、最近孫ができておじいちゃんになった人だ。

 孫の話になると目がシャープペンの芯みたいになる。ごめんそれは言い過ぎ。店長は別に嫌いでも好きでもない。

「シエリ」と言えないので「しーちゃん」と言う。最初は「すえりちゃん」と呼ばれていたけど。
 これってちょっと、東北の訛りが分かる人じゃないと理解できない面白さだな。サ行が訛ってしまって、うまく発音できないんだ。
 それがなんだか温かみがあるんだけど。自分の生まれた土地の方言は大好き。

「はぁ、そうですか?」

 店長はキャベツの入った箱を床に置いて腰を伸ばす。

「なんか困ったことあったらば、言うんだよ」

 ヨッコラセイ、と床からキャベツ入りの箱を持って、なまず店長は行ってしまった。

 そしてあたしは、中学生の時に死んだおじいちゃんを思い出す。この店長、おじいちゃんを思い出すんだよね。
 大好きだったおじいちゃん。

 おばあちゃんは、あたしがまだ赤ん坊の時に亡くなっていたから記憶が無いのだけれど、おじいちゃんはよく、おばあちゃんの話もしてくれたっけな。

 そして、よくこう言ったんだ。

 しー、おじいちゃんの目ば、あげられたらいいのになぁ。おじいちゃんの目じゃイヤか?

 死んだおじいちゃんも、あたしのことを「しー」と呼んでいた。「シエリ」って言えずに「すえり」になってしまうから。

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