隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 多分、店長はあたしのことをただ可哀想がってるだけかも。でもちょっと嬉しかった。

 そして、ほんとうに蓮が居なくなったら、と少しだけ考えてしまった。
 あたしはIT系の専門学校を卒業しても、どこかに就職をしてやって行く自信なんか無かった。

 授業は、真面目に受けてはいた。でもパソコンの画面が苦手。専門に入る前だって、家にだってパソコンはあるし、使えるんだけど。苦手だった。長時間はやっぱり目に負担がかかる。

 専門学校って、検定試験に受かり資格を取らないと意味のないもの。大学や短大に行けば良かったと後から後悔もした。

「しー、なんで目にハンデあんのにそっち関係の学校に行ったわけ?」

 高校の友達に言われた。理由なんか聞かれると困る。えへへ、笑ってごまかしただけのあたしを、変な顔で見てくるクラスメイト。
 どこでも良かったんだよ、蓮と一緒なんだったら。

 2年間の専門学校。ボケっと過ごせば、そんなのすぐ終わってしまうのだ。
 本当に、卒業に必要なちょっとの資格と、少しの知識を覚え、友達との思い出を残して、その2年が猛スピードで終わってしまったんだ。

 目がね、というのは言い訳だけれど、デスクワークは長時間続けられないし、接客は苦手だし。
 でも暮らしていかないといけないので、バイトを探した。接客は苦手だけど、でも働かなきゃ。飲み屋とかキャバ嬢も考えたけど、やっていく自信が無くて。
 ここのスーパーの、なまず店長が、目のことは関係なく雇ってくれた。もうすぐ1年が経つ。

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