隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 店長、あたし蓮が好きなんです。
 キャベツの箱、一緒に持ってって言ってくれればいつでも蓮は来てくれるんです。
 蓮は、あたしのものなんです。小さい頃、片方の目と引き替えにしたんです。

 身長が伸びて、声変わりをし、髭が生えたり。煙草を吸うようになって、軽い香水を付けてみたり。
 指とか腕とか背中とか男らしくなって、もう力じゃ適わないなって思ったり。
 スーツを着て、ネクタイを結ぶのが上手くなっていたり。最初の頃は曲がっていたりしてたのに。いっつも右側に。

 そうやって、あたしはずっと蓮を見てきた。
 右目の怪我という足枷で、あたしのそばに縛り付けてきた。罪滅ぼしをさせてきたんだ。そんな蓮に、あたしは何も言わなかった。

 あたしに寄り添って、片目が不自由な女の為に、蓮は、10代全部の青春を使ったと言っても良い。

 可哀想な蓮。
 でも、このまま一生ずっと変わらずに、蓮がそばに居てくれればいいと思って、可哀想な蓮への罪悪感すら徐々に薄れて。

 いつかどこかへ行ってしまって、離れていくんだろうという恐怖に、本当は震えながら。そしてそれは、自分勝手な考えだと分かっていて。

 蓮の少年時代をあたしは、独り占めにしてきた。

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