隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「本当に、蓮くんから離れたい、蓮くんを自由にしたいって思うなら、彼氏作れ。出会い求めたらいいんじゃない? 詩絵里は美人なんだから」

 ヨウコちゃんはそう言った。それに対して、うんと答えた訳じゃない。(美人なのかは置いといて)あたしだって、どっちに行ったらいいか、分からない。

 でも、何かしら答えというか、道が見付かるなら、新しい一歩を踏み出してみてもいいかもしれない。そう思っただけ。

「分かった。行ってみようかな」

 甘ったれてる。自分でそう思う。

 でも、容姿で彼氏ができるとは限らないんじゃない? ヨウコちゃん。
 いつものカフェ。今日はちょっと客が少ない気がする。平日だから? 関係無いか。でも相変わらずのざわめきと食器音。客が少ないからといって無音じゃない。ざわめきは聞いていると落ち着く。

「今まで、彼氏みたいな人ができても、アナタが言うから付き合ってんだよっていう付き合い方してた」

 高校で初めて告白されて彼氏ができた。専門で同じクラスの人と付き合った。

「ちょっと、やっぱり寂しかったから」

「うん」

「でも、目のことが分かるとダメになっちゃうんだよね」

 ヨウコちゃんがティーカップを置くと、カチャン、と小さな音がした。それが、まわりのざわめきに同化する。ヨウコちゃんの、綺麗な細い指。華奢な指輪。

「最初は良くてもさ、ダメなんだ」

「詩絵里のそういうの、受け止めてくれる人に会えればいいよね」

 そうだね、と気のない返事をしているあたしは、また寒いのにアイスティーを飲んでいる。

< 34 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop