隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「次の、休みが合う日さ、俺の予定入れてよ」

「え? うんいいけど……」

 ミナトさんは、日曜日がお休み。土曜日は仕事入ったりするみたい。あたしはシフトだから、休みがまちまちなのだ。

「あのぅ……」

「なになに?」

「俺の予定、とかそんなこと言わなくても大丈夫ですよ、あたし暇人だから」

 大体、誘われないと外出しないというか。じゃないと、ずっと家に居たりする。1人で出かけてもつまらないし。

「そう? じゃあ遠慮しないー」

「何の予定? 次の休みって」

「うん、ちょっと寒いかもしれないけど、海を見に行きたいなーなんて」

「海かぁ。うん、分かった」

 もともと海の近くで育ったから、海は好きだ。いいなぁ。冬の海か。

「あ、あたしビニールシートあるよ! 持っていく」

「ちょっと、ビニールシートじゃなくて、レジャーシートだろ」

 くっくっ、と笑う声が聞こえてくる。わーヘンな間違いしちゃった。なんでも良いよね、シートで座れれば!

「ピクニックみたいだな。出不精な割には、そんなの持ってんだ」

 たしかに。なんで持ってるんだろう。実家から出る時に荷物に入れたのかな。荷造りの時に「どこかに行くかもしれない」とか思っていたに違いない。草原とか。

「のんびりしたいよねー寒いだろうから、毛布とか持って」

「うん、用意しとく」

「あと休みが分かったら、連絡してよ」

 お弁当作ろうかな。おにぎりとか簡単なもの。がっちりお弁当作っちゃうと重いかもしれないし。
 こういう、何気ない約束。普通に交わせるのが嬉しい。ミナトさんは、何も知らないけれど。あたしの、昔のことも、この目のことも、蓮のことも。

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