隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~

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「あたし、温泉行くんだー彼氏と。行きたいなって思ってたから」

 ものすごい楽しそうに、ヨウコちゃんは言った。2泊3日で行くらしい。

 出発は明日で、これから彼氏の家に行くらしい。その前に一緒にご飯を食べようってことになって。

「いいなー温泉かぁ。冬は温泉だよね」

 白いご飯が食べたかったから、ファミレスで定食を食べてる。昨夜、炊飯器のタイマーを入れ忘れて炊けてなかったんだよね。ご飯食べられなかった。
 ヨウコちゃん。彼氏と休みを合わせて、温泉かぁ。温泉いいなぁ。もうしれしか言葉に出来ない。

 今日、バイト無いし化粧品を買いに行こうと思っていた。やっぱさ、ちょっとこう、大人っぽいメイクとか気になったりして。秋冬メイクだったりとか。
 ヨウコちゃんに付き合ってもらおうと思ってたんだけど。お出かけなら仕方ないか。温泉ねぇ。良いですよ行ってきてくださいよ。お土産を期待しよっと。
 お昼ご飯を食べ終え、店を出て駅へ向かうヨウコちゃんに手を振った。仲良しで良いな。言わなかったけど、お土産待ってるね。

 1人でニヤニヤしながら、アパートまで帰ってきて、玄関を開けた。鞄から携帯を出すと、不在着信があった。温泉のことばかり考えて、着信に気付かなかった。温泉、あたしが行くわけじゃないのに。

「あ、ミナトさん」

 画面を見て、独り言を言ってしまった。3分ほど前だ。すぐかけ直そう。時間的に、仕事中なんだと思うんだけど……。

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