隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「今からか? バイト」

「うん。今日は昼からなんだ」

「そっかー……終わり何時? タケさんとこメシ行こうぜ」

「あー……うん。分かった」

「店に先に行ってるわ、仕事終わったら来て」

「行くとき連絡するね」

「おう、じゃーな」

 思いっきり爽やかに踵を返し、駆けていく。あたしはこれからバイトなんです。仕事なんです。

 蓮。あたしという足枷があるから、飛び立って行けないひと。走っていく後ろ姿を眺めていたら、胸がぎゅっと締め付けられた。
 その背中を追い掛けたい気持ちに、それにこそ、足枷を付けなくてはいけないのに。

 ばかな、女だ。あたしは。

 **

「遅くなっちゃったかな」

 ひとりごちて、携帯の時計を見る。さっき「これから行きます」と蓮にメールを送った。
 なまず店長から用事を頼まれ、予定より帰りの時間が遅くなってしまった。もう20:00を回っている。急いで「B-Rose」に向かおう。

 日曜の夜、街にはあまり人出がない。明日からの仕事に備えてみんな家に居るんだろう。まぁあたしも明日、バイト休みだけど。(曜日が関係ないからな……。)

「こんばんわ~」

「おお、しーちゃん。いらっしゃい」

「おせーよ!」

 タケさんはカウンター、端っこのほうに蓮。同時にあたしを見つけて声をかけてきた。

「ごめん、遅くなっちゃった」

「待ちくたびれた」

 あたしはカウンターに近づいて、蓮の右側に座る。

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