隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
酔っぱらって絡んで来たとでも思ったのか、後ろからグダグダ言ったわたしを振り向いて、そう言う。そして、また前を向いてしまった。ちくしょう。
イライラして来た。かわいいって思われたいのに。どうしてへそ曲がりなことしか言えないの。自分にイライラする。
わたしの部屋の玄関まで来た。これで、今日のお出かけは終わり。蓮との時間も終わり。バッグから鍵を探し出すガサゴソという音が、夜の空気に吸い込まれて行くようだ。部屋に入るまで、居てくれる。いつもだ。「早く寝ろよ」って言われる。そんなことを言われなくても、分かっているわ。
「……体、どこもなんともないか?」
「え?」
ドアを途中まで開けた時、急に聞かれる。その質問は、いつものことだと気付いて暗い気持ちになる。ゆっくりと、蓮の方を見た。
「どこか、痛いとか」
またか。
何度目だろう。幾度と無く繰り返されるこの質問、声音。どこか痛くないか。具合を悪くしていないか。声の表情が変わっても、声変わりしても、同じことを聞かれる。ずっと前から。
「……大丈夫だよ」
わたしのその返事を聞いて、蓮は視線を落とす。前髪が夜風に揺れた。
大丈夫だよ。どこも痛くないし、どこからも血は出ていないの。傷も、無いよ。
「そっか。なら……いいや」
ちょっと笑ったような声。安心したのか、いつもの確認だと分かっているのか。わたしの「大丈夫」は、蓮(れん)にどう聞こえているの?
「蓮(れん)、わたし……」
玄関の電気は点けないでいた。街灯の明かりがうっすら入ってくる。
ひっくり返ったショートブーツ、汚れたスニーカー。独り暮らしの玄関に転がる、わたしの残骸。
「寂しいよ」
前後不覚になるほど酔っているわけじゃない。自分がなにを言っているのかは分かっている。寂しいってなにが。言えないよ。分かってよ、蓮。わたしの思いを分かって。
好きという気持ちを言えない代わりに、蓮の前でふるふると、涙を流す。
わたしは最低な女だ。
蓮のこと、好きなんだ。ずっと好きなの。だから、帰らないで。そう言えば良いのに。言え、言ってしまえ。どうなっても良いから、いますぐに言ってしまえ。
言わないで、わたしは何年こうしているのか。
イライラして来た。かわいいって思われたいのに。どうしてへそ曲がりなことしか言えないの。自分にイライラする。
わたしの部屋の玄関まで来た。これで、今日のお出かけは終わり。蓮との時間も終わり。バッグから鍵を探し出すガサゴソという音が、夜の空気に吸い込まれて行くようだ。部屋に入るまで、居てくれる。いつもだ。「早く寝ろよ」って言われる。そんなことを言われなくても、分かっているわ。
「……体、どこもなんともないか?」
「え?」
ドアを途中まで開けた時、急に聞かれる。その質問は、いつものことだと気付いて暗い気持ちになる。ゆっくりと、蓮の方を見た。
「どこか、痛いとか」
またか。
何度目だろう。幾度と無く繰り返されるこの質問、声音。どこか痛くないか。具合を悪くしていないか。声の表情が変わっても、声変わりしても、同じことを聞かれる。ずっと前から。
「……大丈夫だよ」
わたしのその返事を聞いて、蓮は視線を落とす。前髪が夜風に揺れた。
大丈夫だよ。どこも痛くないし、どこからも血は出ていないの。傷も、無いよ。
「そっか。なら……いいや」
ちょっと笑ったような声。安心したのか、いつもの確認だと分かっているのか。わたしの「大丈夫」は、蓮(れん)にどう聞こえているの?
「蓮(れん)、わたし……」
玄関の電気は点けないでいた。街灯の明かりがうっすら入ってくる。
ひっくり返ったショートブーツ、汚れたスニーカー。独り暮らしの玄関に転がる、わたしの残骸。
「寂しいよ」
前後不覚になるほど酔っているわけじゃない。自分がなにを言っているのかは分かっている。寂しいってなにが。言えないよ。分かってよ、蓮。わたしの思いを分かって。
好きという気持ちを言えない代わりに、蓮の前でふるふると、涙を流す。
わたしは最低な女だ。
蓮のこと、好きなんだ。ずっと好きなの。だから、帰らないで。そう言えば良いのに。言え、言ってしまえ。どうなっても良いから、いますぐに言ってしまえ。
言わないで、わたしは何年こうしているのか。