隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
ぐっと目を閉じた時、蓮の手が伸びてきて、わたしの前髪に触れる。何をされるか、分かっている。
うっすらと残る、右瞼の傷跡。わたしの目蓋に残るそれを、蓮は、そっと指で撫でる。薄い痕だから、よく見ないと分からないのに。
自分が、付けた本人だから。だから、どこにそれがあるのか知っている。とても優しく、傷跡を撫でる、蓮の指。
「痛く無いか、ここ」
痛いわけが無いよ。子供の頃の傷だよ。痛いのは心。でもきっと、蓮の心も痛い。
本当ならその手で、夢とか、希望だとか、愛する人とかを抱きしめていたのかもしれないのに。
「痛く、無いよ」
優しく触れる長い指は、少し震えているようにも思う。傷を撫で、そして頬へと下りる指。
なにをされるか、分かっている。瞼に、温かくやわらかな感触。それと少しアルコールの匂い。
また。まただ。蓮の、お祈りのキス。
治ってほしい、見えないこの右目。見えるようになってほしい。言わなくても、蓮(れん)の心の声が聞こえてきそうなキス。
俺はもう、解放されたい。そう叫んでいるように思う。
右側にキスをされると顔が見えないから、好きじゃない。唇に、してくれればいいのに。
言いたくても言えない。あなたを好きだということ。言ってはいけない。でもきっと、蓮(れん)はわたしの気持ちを知っている。
「……寂しいよ……」
どうしたら良いのか分からない、ふたり。まるで子供みたいな。
そっと触れて、瞼へのキス。ただそれだけ。わたしの心は寂しくて、空っぽになっていくだけ。蓮(れん)の唇は温かいのに、その温度はわたしの唇には届かない。
部屋にある水槽を泳ぐ金魚。こっちを見ている。