隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 珍しく、バイトが入ってない週末が来た。さーどうしようと考えて、ヨウコちゃんを誘おうか、蓮を誘おうか。
 色々巡らせたけれども、実家にちょっと帰ろうかなということになった。「なった」って、1人会議だけど。

 独り暮らしをしてるものの、実家とはそんなに離れていない。ちょっと電車に乗れば海が見えてきて、懐かしい気分になる。海の近くにある、実家。
 懐かしいってねぇ。他県から出て来たヨウコちゃんなんかどうすんだって話。

 連絡もしないで、急に帰って、玄関でお母さんが目をまん丸にしていた。

「昨日にでも連絡くれれば、詩絵里が好きもの作ってあげたのに。いきなり来るんだものー」

 と、お母さんは眉毛を八の字にしている。キッチンでドタバタとなにかやってる。「なにも良いよーあるもので。何でも食べるし」って生意気言ってみた。夕飯の支度でも手伝おうかな。
 お父さんは、近所のおじさんと釣具店まわりの土曜日らしい。釣りに行ってるんじゃなくて釣具店まわりだ。用具が好きって変わってる趣味だよね。

 お母さんは「でもメールしといた。早めに帰るってお父さん」というような主旨のことを言いながら、でも自分のスリッパの足音で掻き消しているので、あんまりよく聞こえない。

 あたしには5つ歳の離れた兄がいるけど、既に結婚して今は秋田に転勤で行っている。まぁそのうち戻って来るんだろうけど。

「一泊だけして、あと帰るね」

 懐かしい実家の匂い。あたしの部屋だったところも、何もないけど、帰った時に寝られるようにベッドだけはあった。


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