隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
「蓮くんはどうしてる?」

 お母さんは冷蔵庫を開けたり、食器を入れたり出したり忙しそう。冷蔵庫と食器が気になってるのか蓮の近況が気になるのか、どっちかしら。

「うん元気だよ。相変わらず」

 何が相変わらずなんだろうと思ったけど、訂正することでもなく突っ込んで語ることでも無いので、そのままにしておいた。

「そう、なら良かった」

 お母さんは少し動作を止めたみたいだった。
 そう、あいかわらず蓮はあたしの側に居てくれています。この右目のおかげです。そんなことを言ったらお母さんは怒るかもしれないけど。

 ミナトさんのことがあったけど。あれから数日経って、あたしと蓮の関係は、特に変化は無くて。次に会った時にはいつも通りの蓮で。「男」こと事は、聞いてこなかった。もう「男できたのか」とか、そういうことを聞いてこない。
 怒鳴って帰ってしまったことも、謝った。

「あー俺もごめん。酔っぱらって絡んだし、なんかよく覚えてないし」

 そう言って頭を掻いた。覚えてないわけないと思うけど。別に良いや。蓮が元気ならそれでいいや。

 おじいちゃんとおばあちゃんの写真が置いてある仏壇に手を合わせた。ただいま。うっすら笑ってるような遺影。もうこれ以上取らない写真。それに微笑みかけて、蓮と、あとあたしのことを見守っていてくださいと祈った。立ち上がって玄関に向かう。相変わらずなんだかバタバタしてるお母さんに「ちょっとブラブラしてくる」と言って、玄関を出た。

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