隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 もうすぐ日が暮れる。大きな街が夕陽に照らされたオレンジと、この辺りの田舎のオレンジは色が違う。オレンジが上塗りする土台の色が違うからなんだろうな。
 
 のろのろと歩き、怪我をした公園に来た。子供の頃には大きいと思ってた遊具達。今はなんだかおもちゃみたいだ。来る度に思う。

 砂場には、子供が忘れていったんだろうプラスチックの小さな赤いスコップが刺さっていた。どこかの家からカレーの匂いがしてくる。鼻がひくひくして、お腹が減った。なんでカレーの匂いってこう食欲を刺激するんだろう。風が冷たい。

 あの怪我をした後。退院し、学校に登校したあたしは、クラスのみんながちょっと距離を置いているのに気付き、涙が出そうになった。「お前、もう普通じゃないんだな」って友達が離れていってしまった気がした。眼帯をして顔色の悪いあたしは教室で孤立していた。
 蓮とはクラスが違っていたけれど、蓮なんかもっと大変だったと思う。言わないけれど、もしかしたらイジメにあっていたかもしれない。だって、噂は広まる。噂は怖い。事実と嘘が入り交じって、人に伝わる。心ない言葉を浴びせる人だって居たかもしれない。蓮の両親だってそうだ。

 誰も居ない公園。ブランコが風で揺れている。あたしはそのブランコへ座る。掴んだ鎖も冷たかった。

 息子が女の子の友達に怪我をさせてしまったということで、蓮の両親は住み辛くなり、家族で引っ越して行った。それは、ちょっとあたしがほっとした出来事だった。蓮はちょっと登校に時間がかかるが、転校はさせられなかった。これも、ほっとした。


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