隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 数日後、バイトが早く終わってアパートに帰ってきた。でも、ちょっと外出したい気分だったから、夕方、買い物がてら外に出て、そして帰りに「BーRose」に寄った。入り口の重くて苛つく(タケさんごめんね)ドアを開けて入ると、数人の客。あたしを見つけてタケさんが手を挙げた。

「おー。あとから蓮が来るのか?」

「来ませんよー。今日はあたし1人で来たい気分で」

「珍しいなぁ。しーちゃんが1人で来るなんて。ゆっくりしてって」

 サービスねって言って、イチゴが3個入った小鉢をくれた。美味しそう。真っ赤で可愛かった。

「なににする?」

 カウンターの端っこに座って、頬杖をつくあたしに、タケさんは聞いてきた。相変わらずゴリゴリとロックがかかっている。

「モスコミュールで。あとチーズ食べたいなぁ」

「あんまり強くしないほうが良いよね、モスコ」

「はい」

 グラスを取り出して、目の前で作ってくれる。1人で来たこと無いし、タケさんとこうして話すこともあんまり無い。蓮が必ず居るから。
 カクテルを作り終わるまで、あたしは待った。シュワっという音と共に、目の前に差し出された薄い色のアルコール。ほっそりとしたグラスに入っている。コースターはドクロ。ドクロなんだよな……これはちょっとセンスが微妙。誰が考えたんだろう?

「あ、この間すみませんでした」

「なに?」

「ほらこの間、あたし怒鳴って帰っちゃって。子供みたい」

 あーあれ、みたいな顔でタケさんは思い出した様子だった。
< 85 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop