隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 喉の痛みで目が覚めた。寒気がして、くらくらする。熱あるな……こりゃ風邪ひいたかな。実家に帰った時に、寒い公園で暗くなるまでブランコに乗ってたから。
 うっかりだ。今日バイトが無い日で良かった。タケさんの店に行った帰り、具合悪かったのはこのせいか。帰ってきて、すぐベッドに入ったんだけど。

 起きあがって、熱を測ろう……と思ったが、体温計を持っていないことに気付く。時計は昼の12時半を過ぎていた。蓮は昼休み中だと思う。ベッドから見える室内は、当たり前だけど昼間の明るさだ。ずいぶん眠っていたんだな。

 バッグから携帯を取り出しベッドに戻る。電話をかけようとしてやめ、メールを打った。

「なんか、風邪ひいたみたい。会社終わってからでいいから体温計貸してください」

 送信。蓮にそうメールを送った。布団にもぐり込む。体中がだるい。何か食べた方がいいかもしれないけど、動きたくない。
 なんだか無性に寂しくなってきてしまって、涙が出てきた。弱ってるなと思った。色々と。早く夜になって蓮が来てくれると良いのに。
 病気の時って、弱気になる。甘えてしまう。前にもこういうことがあったな。

 学生の頃、蓮がインフルエンザにかかった時に一週間ほど会えなくて寂しかったことを思い出し、思い出しているうちに意識も薄れて眠りに落ちた。

 夢を見た。蓮の背中。蓮だと気付いて、呼んだ。けれど振り向かない。ねぇ、蓮、蓮ってば! 呼んでいるのに行ってしまった。背中が遠くなって行くのを必死で追いかけてるのに。前に進まなかった。

 前に居る蓮は、遠ざかって行きながら段々と若返り、小学生くらいになっている。
 あたしは泣きながら追いかけた。夢の中でもあたしは片目しか見えなくて、蓮を追いかけているうちに、見える方の目も見えなくなっていた。

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