隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 少し微笑んで理名ちゃんは中へ入れてくれた。なんか変な気分だな。蓮以外の人に「お茶でも」とか言われて、蓮の部屋に入るってのは。

「おかまいなく」

 とか言ってみたけど、理名ちゃんが温かいお茶を入れてくれ、あたし達は向かい合って座る。蓮の部屋。前に入ったのはいつのことだったろう。

「あ、あの」

 なんか喋らなきゃと思ってとりあえず声を出す。

「なんか昨日電話したら、熱があるとか言ってて、心配で来てみたの」

「お兄ちゃん、昨日から実家に帰ってます」

 あ、そうなんだ。電話に出た時は実家だったのかな。じゃあ風邪が酷くても家族が居るなら安心か。ていうか、あなたはなんでここに居るんだ? 兄は実家、妹は兄の部屋。

「昨日、お兄ちゃんに連絡しないで来たら、すれ違いになっちゃって。合い鍵持ってたから、入ってて良いって言われて」

「そっか……じゃあ一晩独りで居たの? 」

「はい。でもたぶん、もうこっちに向かってると思います」

 そっか。もうすぐ帰ってくるんだ。で、あたしと理名ちゃんの会話は途切れて、沈黙がやってくる。参ったな。あたしもこういうの苦手なんだけども……。知ってるとはいえ、何年も会ってなかったんだもの。

「あ、あの。理名ちゃんていくつになったの?」

「いま中学三年です。」

 もうそんな歳なんだ。

 蓮にロングヘアのカツラをかぶせて、もっと表情を柔らかくしたような顔をしている。似てるなぁ。当たり前か兄妹だもん。
 そしてまた沈黙。無駄な時間が流れていってる気がする。遠くで、救急車のサイレンが鳴っているのが聞こえる。

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