隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~
 2人でタクシーを拾い、救急搬送されたという国立病院へ向かう。蓮は、バイクでこっちに帰ってくる途中に事故に遭ったらしい。もうすぐアパートに辿り着くところだったという。……蓮の部屋で聞いた救急車のサイレンはもしかしたら。

「どうしよう、どうしよう」

 独り言なのか、あたしに言ってるのか分からないが、理名ちゃんは「どうしよう」をもう百回くらい言っている。それはあたしも同じ思いで、そして心臓が3倍速くらいに鳴っている。早く、早く病院へ着いて。

 病院へ到着して、現在手術中だと言われた。蓮のご両親がいらっしゃった。数年振りに会う。緊張はしていたけど、蓮の容態が心配で、それどころではなかった。
 手術室の前のベンチに座りじっと待っている。「手術中」のランプは、あたし達が病院に到着してから既に2時間は点灯していた。

 医師が話す「意識不明」も「予断を許さない状態です」も、どこか他の国の言葉みたいで理解するのに時間がかかった。なんだかドラマの山場でも見ているみたいだ。
 ここへ向かう時も、病院内は迷路のようであたし達を蓮の元へ行かせまいとしているんじゃないかと思うほどだった。

 しばらくして「手術中」のランプが消え、手術室から蓮が寝ているベッドが運ばれて行ったけれど、あたし達の前を通らずに行ってしまったので蓮に会えなかった。ベッドの膨らみだけが、今のが蓮だったという不安定な確信。


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