TITOSE
「平吉」

美代は、平吉のところに行っていた。

平吉は、明るく返事を返す。

「あのな、平吉。百合子は、もう諦めてくれ。百合子の目には、平吉じゃなく…他の男がいる」

美代の言葉に、平吉は顔を曇らせた。

「は?」

「聞こえなかったか?」

美代に返され、平吉は黙った。

それから、美代に背を向けて家に向かった。

(百合子を奪った男…。いや、憎むべき相手はそいつじゃない。百合子は確かに許嫁だから、他の男を好きになるかもしれない。だが、それを止めない美代さんが悪い)

ニヤリ、と平吉は笑った。

平吉が憎んだのは、千歳じゃなく…美代。

百合子が他の男を好きになる可能性はあった。
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