バケバケ
男の人はチラッと私の顔を見て、また私に背中を向けて歩き出した。
そしてエレベーターのボタンを押した。
…違ったかな?
「……俺は…人間だ。それから…千秋も人間だ。」
「……」
バケバケじゃなかった。
そうだよね、中森千秋はアイドルだから当然みんなに姿が見えてるんだし。
この人はそのマネージャーなんだから…
「でも、ここにいるシイのことは見えてるんですよね?」
「……メガネ。」
あ、見えてるんだ。
「じゃあ、二人は持ち主側ってことですか?」
「……持ち主…そうだ。千秋は持ち主だ。ただ……俺は違う。」
「え?」
それはつまりどういうこと?
―16階です―
上方から機械のアナウンス音が聞こえ、私たちはエレベーターを降りた。
「…千秋は…1604号室だ。」
男の人は黙々と歩き出した。
1604号室はエレベーターを降り、左に曲がった突き当たりにあった。