バケバケ



つまり婚約の証ということか。


「俺はね、これから房枝さんにこれを贈るんだ。」


「なるほど。」


うまく行きますようにとはこのことか。


「非常に申し訳ないが昭仁、ボクは縁結びの神ではないのでな、お前の力にはなってやれん。」


「そうなの?」


ボクは昭仁の府抜けた顔を見上げた。


「悪いな。」


「いや、いいよ。」


「だがちょっとしたまじないなら教えてやれるぞ。」


「ホント!?」


昭仁の顔が輝く。


なかなか素直なやつだ。


本当はそんなまじないなんてなかった。


ただこいつがあまりにも面白く、ボクも退屈していたこともあり、からかってしまった。


しかしこのボクの嘘が後に悲劇を招くことになろうとは、この時夢にも思っていなかった。


「どうやるんだい?」


「まず…その時計を愛せ。」


「時計を?」


「そうだ。その時計、房枝に渡すのだろう?ならば時計も房枝を想うように愛すのだ。」




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