バケバケ
「そんなシイ君にチャンスをあげましょうか。」
そいつは口元だけで笑った。
まるで先の尖った氷の塊みたいだ。
「シイ君が強くなる時間をあげますよ。」
「…いらない。」
やっと…声が出た。
「いらない?力もなしに僕には勝てませんよ?」
「お前なんか信用できるか!洋子を殺そうとしてたくせに!」
「殺す?」
そいつは立ち上がった。
「人聞きの悪い。僕は洋子を愛しているんです。だから…洋子のすべてが見たい。…笑顔も、泣き顔も、怒った顔も、……死に際の怯えた顔も…」
「…お前、」
狂ってる。
こいつはおかしい。
「ただ…敵がいないのはつまらない。僕は、シイ君に敵役をやって欲しいんです。」
…こいつ、馬鹿にしやがって。
「そんな手に俺が乗るわけないだろ!」
「いいんですか?そんな口をきいて。」
「?」
「君は弱い。だから洋子は守れない。けど、僕には洋子を守れる。」
「……」