バケバケ
私シイのことまだ何も知らないよ?
木に近づく。
これがもし、私の過去の幻想だとしても…
夢だったとしても…
それでもいい。
私はシイと話がしたい。
「シイ…」
男の子が木の陰から顔を出した。
ふたつの綺麗な瞳が私をみている。
「シイ…あのね、…」
私はシイに手を伸ばした。
さっきは触れられなかった。
「……」
シイが何かを言いかけた。
何?
言って?
私の小さな手と、シイの小さな手が触れる。
その瞬間、強い風が吹いた。
シイの姿が風に掻き消されていく。
「待って!」
離れる手と手。
はためく髪。
風の音。
シイの口元が動いたのが見えた。
何て言ったの?
風の音で聞こえないよ…
そして、何も見えなくなった。