小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
いよいよだ。
早く返してしまわなければ、また今日も返すことが出来なくなってしまうかもしれない。
そんなことじゃいけない。
そんなカッコ悪いところは見せたくない。
素早く仏壇の中の鍵を取ると、代わりに今までずっと持っていた合い鍵をそこに置いた。
置いた。
置いた。
本当はアイチに何か言うつもりだったけれど、もう既に涙が溜まってきていたからやめておいた。
すぐに立ち上がると後ろを向いて、今、できる限りの笑顔を浮かべる。
「じゃあ千津ちゃん、またね」
そう言って帰ろうとした時、それは背中を追いかけてきた。
「あぁ、待って、真海子。愛生の一周忌の日にちが決まったのよ」
「そう」
話をそこで終わらせたい自分がいた。
情けないけれど、もうこれ以上はアイチの話をしていられないかもしれないと思うところまできてしまっていた。
それでも何とか、そんなことじゃいけないと思い直す。
ポケットからケータイを取り出しながら聞いてみる。
「いつになったの?」
「7月16日の日曜日よ」
千津ちゃんが決まった日にちを告げる。
あたしはそれをケータイのメール画面に並べていく。