小さい頃に習うこと、大きくなってわかること
その作業が終わる頃、千津ちゃんは穏やかな口調で言った。
「早いものねぇ。もう1年なんて」
その視線は、アイチの遺影を優しく見つめている。
「そうだね」
本当はもっと何か気の利いた言葉を言うつもりだったけれど、それはびっくりするほど、出て来なかった。
情けない。
1年経っても世間話すらできないなんて。
千津ちゃんはじっとケータイを見つめていたあたしの背中をぽんっと押した。
「みんなにも日にち、教えてあげてちょうだいね」
嫌だ、とは言えなかった。
本当は千津ちゃんから伝えてもらった方がいい。
けれど、もうそんなことで甘えていちゃいけない。
「伝えとくね」
うまく笑えていたかはわからない。
けれど、笑っていなきゃと言う思いだけは強くあった。
「お願いね」
「うん」
千津ちゃんのお願いに返事をしてから、アイチの部屋を出た。