小さい頃に習うこと、大きくなってわかること


ねぇ、神様?


あたしは昨日、もうこれ以上、何も起こらないことを祈った。


あたしにはそれぐらいしかできないから強く強く祈った。


祈っていたのに。



目の前に広がる光景に、あたしはまたも自分の動きを止められた。


自分のマンションのエントランスはいつだって暖かい色の照明で照らし出されているはずなのに、今日は冷たい空間にしか見えない。


頭が働かない。


体が動かない。


心臓が…


心が痛い。



アイチの自転車を降りて、いつも通りに別れた後、あたしはまっすぐ自分のマンションのエントランスに向かった。


いつも通りにドアを押し開けて、自動ドアは鍵で開けて、そうやって自分の家に向かうはずだったのに。



エントランスのドアには、テレビなんかでよく見る怪文書が一面に貼られていた。


「403号室の奥戸真海子は両親に捨てられたかわいそうな子。募金はこちらまで」


その下には家の電話番号が貼られている。


ダメだ。


負けたら絶対にダメ。


負ければあの男の思い通りになる。


負けるな。


こんなガキくさい嫌がらせに、あたしは絶対負けたりしない。



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